当直や関連病院への異動はすべて医局の人事で決まり、自分では選べない。そんな働き方に疑問を感じて「医局 辞めたい」と検索したことがある医師は少なくないはずです。
結論から言うと、医局を離れても専門医取得や転職の道は制度的に用意されており、「医局に残るしかない」という状況ではありません。ただし、無給医問題のように医局の外に出て初めて改善された待遇の問題もあれば、人事権が及ばなくなることで失うものもあります。この記事では、公的な調査データをもとに、医局の仕組みと「辞めたい」と感じる背景、退局後の選択肢を研究所が整理しました。
- 結論:医局を辞める前に、まず3つを切り分けて考える
- 医局とは何か——人事権と関連病院への派遣という仕組み
- 「医局 辞めたい」と検索する人の背景にあるデータ
- 医局離れは数字にも表れている——マッチング結果と新専門医制度
- 退局を考えるときに確認しておきたいこと
- 残る・転科する・転職する——医局を出たあとの選択肢を比較する
- まとめ
- 出典
結論:医局を辞める前に、まず3つを切り分けて考える
「医局を辞めたい」という気持ちの中には、性質が異なる複数の問題が混ざっていることがあります。研究所では、感情のまま退局を決める前に、次の3点を切り分けて確認することをおすすめします。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 待遇・労務上の問題かどうか | 給与が支払われていない、時間外手当が出ていないなど、医局の外に相談すべき事案が含まれていないか |
| 次の人事異動で変わる可能性があるか | 医局人事は例年秋に内定することが多く、不満の原因が今の配属に限定されたものかどうか |
| 医局を離れても専門医取得の道があるか | 新専門医制度の基幹施設・連携施設として認定された病院で、研修を継続できるか |
この3点のうち、特に1つ目は「医局に残るか辞めるか」という選択とは別に、早めに対応したほうがよい問題です。次の章で、公的な調査が明らかにした実態を見ていきます。
医局とは何か——人事権と関連病院への派遣という仕組み
医局とは、大学病院の診療科ごとに教授を中心として形成される組織で、法律上の正式な制度ではなく、日本の大学病院に慣習として根づいてきた仕組みです。医局に所属する医師は、大学病院での診療・研究・教育に加えて、医局が人事権を持つ関連病院(地域の市中病院)への派遣(出向)を通じてキャリアを積むのが一般的な形です。
この派遣の仕組みは、地域の医療機関にとって医師を確保する手段としても機能してきました。厚生労働省の医師偏在対策に関する資料でも、大学病院からの医師派遣が地域医療を支える仕組みの一つとして扱われており、医師少数区域への派遣実績が病院ごとに大きく異なることも指摘されています。つまり医局は、個々の医師のキャリア形成だけでなく、地域医療の人員配置という役割も担っている組織だと言えます。
一方で、どの病院にいつ異動するかという人事は医局(教授や医局長)の裁量で決まり、医師本人の希望がそのまま通るとは限りません。この「人事権が自分にない」という構造が、「医局 辞めたい」という検索につながる大きな要因の一つです。
「医局 辞めたい」と検索する人の背景にあるデータ
医局に所属する医師、特に大学院生や若手医師の待遇については、文部科学省が実態調査を行っています。2019年に発覚した「無給医」問題を受けて、文部科学省は全国108の大学病院(医科・歯科)を対象に、教員等以外で診療に従事する医師・歯科医師の処遇を調査しました。
| 公表時点 | 調査対象 | 無給医に該当した人数 | 該当病院数 |
|---|---|---|---|
| 2019年6月28日(第1次公表) | 108大学病院・計31,801人 | 2,191人(約7%) | 50病院 |
| 2020年2月7日(最終報告) | 同上 | 2,819人(約8.8%) | 59病院 |
ここでいう「無給医」とは、大学院での研究や自己研鑽という名目で臨床業務に従事しながら、雇用契約を結ばず給与が支払われていなかった医師・歯科医師を指します。最終報告では、調査の精度が上がるにつれて該当者数がさらに増えたことが分かります。この問題を受けて、各大学では雇用契約の明確化や労務管理の見直しが進められましたが、「医局に所属していることと、適切な雇用契約を結んでいることは別の問題」という点は、今も確認しておく価値があります。
待遇面では、大学病院に勤務する医師の年収が他の勤務医と比べて低い水準にあることも、公的な調査で示されています。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2011年12月に実施した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」では、大学病院に勤務する医師の平均年収は739.5万円で、調査対象とした勤務先の中で最も低い水準だったと報告されています。この調査はやや古く、その後の働き方改革の影響などは反映されていませんが、大学病院の給与水準が構造的に低く見られやすい背景を示すデータとして参照できます。
所長モヤのひとこと
無給医のように「契約そのものが適切でない」ケースは、医局に残るか辞めるかという判断の前に、労働基準監督署や大学の労務担当に確認すべき問題です。心身の負担が大きいと感じる場合は、転職の検討と合わせて、厚生労働省「こころの耳」などの相談窓口も選択肢に入れてください。
医局離れは数字にも表れている——マッチング結果と新専門医制度
若手医師が医局を敬遠する傾向は、医師臨床研修マッチングの結果にも表れています。厚生労働省が公表した医師臨床研修マッチング協議会の結果によると、2025年度(2026年度研修開始)のマッチングでは、参加者9,651人のうちマッチ者数は8,910人、マッチ率は92.3%でした。このうち大学病院にマッチした人の割合は35.2%、臨床研修病院(市中病院)にマッチした人の割合は64.8%で、大学病院の割合は前年度(2024年度)の35.3%からさらにわずかに低下し、過去最低水準となりました。充足率で見ても、大学病院が78.0%であるのに対し、臨床研修病院は88.7%と、市中病院を選ぶ医学生のほうが多い状態が続いています。
この傾向は、2018年度に始まった新専門医制度のもとでも変わっていません。新専門医制度は、日本専門医機構が認定した「基幹施設」と複数の「連携施設」が専門研修施設群を形成し、専攻医を受け入れる仕組みです。日本専門医機構の説明によると、基幹施設には3名以上、連携施設には1名以上の常勤指導医を置くことが求められ、専攻医は基幹施設で6ヵ月以上、連携施設で3ヵ月以上の研修を行うことが原則とされています。大学病院が基幹施設になっている診療領域は多いものの、市中病院が基幹施設として認定されている領域もあり、必ずしも「専門医を取るには医局に所属し続けなければならない」という制度ではありません。
つまり、医局を離れても、認定された施設群で研修を続けられる専門領域であれば、専門医取得そのものを理由に医局に残る必要性は、制度上は以前より小さくなっています。ただし、どの施設が基幹施設・連携施設に認定されているかは診療科や地域によって異なるため、自分の専門領域の研修プログラムを日本専門医機構や学会の公式情報で確認することが欠かせません。
退局を考えるときに確認しておきたいこと
医局の人事は例年秋に次年度の配属が内定することが多いため、退局を申し出るタイミングは早いほど調整の余地が生まれやすくなります。退局を検討する際は、次の点を確認しておくと、その後の判断がしやすくなります。
- 自分の診療科の専門医研修プログラムが、医局以外の基幹施設・連携施設でも継続できるか
- 現在の雇用契約(給与・社会保険・労災保険の加入状況)が適切に結ばれているか
- 関連病院への出向中であれば、契約上の身分がどちらの病院にあるか
- 退局後も学会発表や論文指導など、研究面でのつながりを維持する必要があるか
これらは医局の中だけでは判断しづらい内容も含むため、専門医制度を運営する学会・機構の公式情報や、必要に応じて労務の専門家に確認することをおすすめします。心身の不調が「辞めたい」気持ちの背景にある場合は、転職や退局だけを解決策にせず、厚生労働省「こころの耳」のような相談窓口も合わせて確認してください。医師の勤務実態と心身の負担については、研究所の別記事「医師が「辞めたい」と感じたら確認したい厚労省データと相談窓口・選択肢」でも整理しています。
所長モヤのひとこと
退局は「医局との関係を断つ」ことであって、「医師としてのキャリアを断つ」ことではありません。専門医取得の道筋さえ確認できていれば、焦って結論を出す必要はないはずです。
残る・転科する・転職する——医局を出たあとの選択肢を比較する
退局を決めた、あるいは退局を見据えて情報を集めたい場合、勤務先を変える選択肢として医師専門の転職エージェントを使う方法があります。エージェントごとに対応エリアや規模が異なるため、公式サイトで確認できる事実だけで比較することが大切です。
| 項目 | 医師転職ドットコム(株式会社メディウェル) | MCドクターズネット(Medical Concierge株式会社) |
|---|---|---|
| 対応職種 | 医師・薬剤師・医療事務職 | 医師・看護師・薬剤師・医療事務・栄養士・検査技師など |
| 対応エリア | 全国7拠点(札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡) | 全国26拠点のネットワーク |
| 有料職業紹介事業許可番号 | 01-ユ-010052 | 13-ユ-305032 |
| 公表されている求人数 | 常時44,000件以上(医師求人、公式サイト記載) | 公式に記載なし |
どちらが優れているというより、相談したい拠点が近いか、医師以外の職種もまとめて相談したいかといった、自分の状況に合うかどうかで選ぶのが基本です。エージェントの選び方そのものは、研究所の別記事「医師の転職エージェントの選び方」でも詳しく整理しています。
医師の転職を相談できるサービス
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なお、研究所では、派遣・単発・スポット勤務への切り替えを積極的にすすめることはしていません。医局を離れる目的が「専門医取得を続けながら、人事権のある働き方をしたい」ということであれば、常勤での転職や転科の検討のほうが、将来のキャリア形成という点では比較すべき点が多いためです。
まとめ
医局は法律で定められた制度ではなく、大学病院の慣習として医師の人事とキャリア形成を担ってきた仕組みです。無給医問題のように医局の中だけでは解決しづらい待遇の課題がある一方で、2018年度に始まった新専門医制度のもとでは、医局を離れても認定施設群で専門医取得を続けられる領域が増えています。マッチング結果が示すとおり、若手医師が大学病院以外を選ぶ傾向は年々強まっており、「医局を辞める」という選択は特別なものではなくなってきています。退局を考えるときは、雇用契約・専門医研修・次の勤務先という3点を、感情とは分けて確認することから始めてください。
出典
- 文部科学省「大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査」の公表について
- 厚生労働省「令和7年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします」
- 独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(調査シリーズNo.102)
- 日本専門医機構「研修施設の方」
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「内科医」
- 厚生労働省「こころの耳」相談窓口
- 株式会社メディウェル 会社概要(医師転職ドットコム)
- Medical Concierge株式会社 会社概要(MCドクターズネット)
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報の整理です。給与・求人状況は地域や時期で変わるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。