「106万円の壁」は、2026年10月1日に撤廃される予定です(2025年6月成立の年金制度改正法による。正式な施行日は政令で確定)。
撤廃されるのは、パート・アルバイトが社会保険(厚生年金・健康保険)に入る条件のうち「月額賃金8.8万円以上」という賃金の基準です。これがなくなると、勤務先が従業員51人以上の企業なら、「週20時間以上働いているかどうか」が加入の主な分かれ目になります。
「自分は対象になるのか」「手取りはどう変わるのか」を、厚生労働省・日本年金機構の一次情報をもとに整理しました。3分で全体像がつかめます。
106万円の壁とは|社会保険に入る4つの条件
まず前提から。「106万円の壁」は法律上の年収基準ではなく、通称です。
パート・アルバイトなど短時間労働者が勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するのは、現在、次の4つをすべて満たす場合です(日本年金機構)。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代・賞与・通勤手当などは含めない)
- 学生でない
- 従業員(厚生年金の被保険者数)51人以上の企業(特定適用事業所)などで働いている
この2番の「月額8.8万円」を年収に換算すると 8.8万円 × 12ヶ月 = 105.6万円。これが「106万円の壁」と呼ばれる理由です。
ポイントは、判定はあくまで月額の所定内賃金で行われること。「年収が106万円を1円でも超えたら加入」という仕組みではもともとありません(詳しくは後述の「よくある誤解」で)。
2026年10月の改正で何が変わるか
変わること: 「月額8.8万円」の賃金要件が撤廃
2025年6月に成立した年金制度改正法(6月13日成立・6月20日公布)で、上の4条件のうち2番の賃金要件を撤廃することが決まりました。
施行時期について、日本年金機構は「令和8年(2026年)10月に撤廃予定」と案内しています。法律上は「公布から3年以内の政令で定める日」とされているため、正確な施行日は政令で確定します。本記事では以下「2026年10月(予定)」と表記します。
撤廃の背景はシンプルで、最低賃金の引き上げにより、全国どこでも「最低賃金 × 週20時間」で月8.8万円前後に達するようになり、賃金要件が実質的に意味を持たなくなったためです。
撤廃後に残る条件: 「20時間の壁」へ
賃金要件がなくなった後、加入の条件は次の3つになります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 学生でない
- 従業員51人以上の企業などで働いている
つまり判定軸は金額から時間へ移り、「106万円の壁」は実質「週20時間の壁」に変わる、というのが今回の改正の骨格です。
企業規模の条件も段階的になくなる(こちらは2027年10月から)
もうひとつの「51人以上」という企業規模要件も、時期をずらして段階的に撤廃されます(厚生労働省)。
| 時期 | 対象となる企業規模 |
|---|---|
| 現在 | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21人以上 |
| 2032年10月〜 | 11人以上 |
| 2035年10月〜 | 規模要件の撤廃(10人以下も対象) |
このほか、常時5人以上を使用する個人事業所への適用も2029年10月から広がります(飲食サービス業・宿泊業など。既存の事業所は当分の間対象外)。
どのくらいの人が新たに加入するのか
厚生労働省の令和6(2024)年財政検証のオプション試算では、企業規模要件の廃止などで約90万人、賃金要件の撤廃(または最低賃金引き上げによる同等の効果)まで合わせると約200万人が新たに被用者保険の適用対象になると見込まれています(2027年10月に適用拡大を実施した場合の試算)。
なお、新たに加入対象となる短時間労働者には、当初3年間、事業主の追加負担によって本人の保険料負担を軽減できる特例措置が用意されています(例: 月額賃金8.8万円の場合、本来の負担の25/50=半分。3年目は軽減割合が半減)。
誰にどう影響する?ケース別の整理
自分がどのケースかで影響は大きく変わります。2026年10月(予定)時点の整理です。
| ケース | 影響 |
|---|---|
| A. 51人以上の企業で週20時間以上・月8.8万円未満に抑えて勤務 | 新たに加入対象になる可能性が高い(今回の改正の主な対象) |
| B. 51人以上の企業で週20時間未満 | 当面は対象外(時間要件は残るため) |
| C. 50人以下の企業で勤務 | 2026年10月時点では変わらず。2027年10月以降、勤務先の規模に応じて順次対象に |
| D. 配偶者の扶養(第3号被保険者)でCに該当 | いわゆる「130万円の壁」(被扶養者認定の基準)が引き続き関係する |
手取りはどう変わるのか(考え方)
新たに加入すると、給与から厚生年金・健康保険の保険料が天引きされるため、目先の手取りは減る方向に働きます。一方で、将来の厚生年金の上乗せや、傷病手当金・出産手当金といった保障が加わるため、負担だけでなく給付とセットで見るのが正確な捉え方です。
厚生労働省のリーフレットの例では、年収106万円で配偶者の扶養(第3号被保険者)だった人が加入した場合:
- 保険料の本人負担: 月およそ12,500円(厚生年金 約8,100円+健康保険 約4,400円。会社も同額を負担)
- 将来の年金: 20年間加入で月およそ8,800円の増額(終身)+傷病手当金・出産手当金の対象に
※上記は厚労省資料の例示に基づく概算です。実際の金額は賃金額・都道府県・加入する健康保険・軽減特例の適用などの個別条件で変わります。ご自身の正確な金額は勤務先または年金事務所にご確認ください。
また、すでに国民年金・国民健康保険を自分で払っている人(第1号被保険者)が加入する場合は、厚労省の例示では保険料負担がむしろ下がるケースも示されています(年収130万円の例で月23,600円→15,600円)。「加入=一律に手取りが減る」ではない点は押さえておきたいところです。
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今からできる4つの準備
1. 自分の「週の所定労働時間」と「勤務先の規模」を確認する
影響の分かれ目はこの2つです。雇用契約書の所定労働時間と、勤務先が特定適用事業所(51人以上)かどうかを確認しましょう。
2. 「時間を抑える」か「むしろ超えて働く」かを世帯で話し合う
加入を避けたい場合の調整軸は、金額ではなく週20時間未満への時間調整に変わります。ただし労働時間を減らせば収入自体も減ります。逆にしっかり加入して労働時間を増やし、保障と年金を取りにいく選択もあります。どちらが合うかは世帯の状況次第で、一概にどちらが有利とは言えません。
3. 勤務先からの説明・軽減特例の扱いを確認する
新規加入者向けの保険料軽減特例(当初3年間)は事業主の手続きを通じて適用されます。勤務先がどう対応するか、説明の機会を確認しておきましょう。
4. 数字で比較してから決める
「なんとなく損しそう」で時間を減らすのが一番もったいないパターンです。保険料負担と、年金増・保障をならべて数字で比較してから決めることをおすすめします。
よくある5つの誤解
誤解1: 「年収106万円を1円でも超えたら強制加入」
判定は月額の所定内賃金(8.8万円)で行われ、残業代や賞与は含みません。年収の瞬間風速で決まる仕組みではありません。そしてこの賃金基準自体が2026年10月(予定)になくなります。
誤解2: 「103万円の壁と106万円の壁は同じもの」
103万円の壁は税金(所得税)の話、106万円の壁は社会保険の話で、まったく別の制度です。なお税金側も2025年の税制改正で基礎控除等が引き上げられ、所得税がかかり始めるラインは変わっています(こちらは本記事の対象外なので別記事で扱います)。
誤解3: 「撤廃されたら保険料の負担がなくなる」
逆です。「壁の撤廃」とは加入の基準が緩くなり、社会保険に入る人が増える方向の改正です。「壁がなくなる=負担が消える」ではありません。
誤解4: 「130万円の壁もなくなる」
配偶者の扶養に入れるかどうかの「130万円の壁」(被扶養者認定の基準)は、今回の賃金要件撤廃とは別の仕組みで、引き続き残ります。特に50人以下の企業で働く人には当面こちらが関係し続けます。
誤解5: 「パート全員が2026年10月から加入になる」
週20時間未満の人、学生、50人以下の企業で働く人(2026年10月時点)は対象外です。全員が一斉に加入になるわけではなく、対象は段階的に広がっていきます。
まとめ
- 106万円の壁(月額8.8万円の賃金要件)は2026年10月1日に撤廃予定(正式な施行日は政令で確定)
- 撤廃後の分かれ目は週20時間と勤務先の規模。企業規模要件も2027年10月から段階的に撤廃
- 手取りは負担と給付のセットで判断。厚労省の例示では本人負担は月1万円強、将来の年金と保障が上乗せ(個別条件で変動)
制度は決まりましたが、あなたの手取りがどうなるかは、あなたの数字を入れてみないと分かりません。
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月収と労働時間を入れるだけで、加入した場合・しない場合の手取りの目安を比較できます。
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